「断熱のいい家は、冬あったかいですよ」

家づくりの相談で、よくこんなお話をします。でも、こんな声もよく聞きます。
「あったかいのはうれしいけど、そのぶん建てるときのお金が高くなるんでしょう?」
たしかに、壁に入れる断熱材を厚くしたり、性能のいい窓を選んだりすると、最初にかかるお金は増えます。では、そのお金は本当に「取り戻せる」のでしょうか。
今回は、断熱研究の第一人者である岩前篤先生(近畿大学)たちが関わった2つの研究を、グラフを使いながら分かりやすくご紹介します。
これまで、断熱にかけたお金は「光熱費が安くなる分で取り戻せます」と説明するのが一般的でした。
ところが実際に計算してみると、光熱費の節約だけで元を取るには、なんと約30年もかかってしまいます。

「30年なんて、住宅ローンと同じくらい…」
「それなら、断熱はほどほどでいいかな」
そう思ってしまうのも無理はありません。これが、あったかい家が広まりにくい大きな理由のひとつでした。
でも、研究者たちは「光熱費以外にも、見落としているお得があるのでは?」と考えました。
2011年に発表された研究では、新しい家に引っ越した人たちにアンケートをとり、約1万人から回答をもらいました。聞いたのは、こんなことです。
その結果、暖かい家に引っ越した人ほど、いろいろな症状が出なくなった割合が高いことがわかりました。岩前先生の別の大規模調査でも、同じ傾向がはっきり出ています。

体調がよくなれば、次のようなお得が生まれます。
この「健康のお得」を光熱費の節約に足して計算し直すと、元が取れるまでの期間は約30年から約16年に、ぐっと短くなりました。

2020年には、この考え方をさらに進めた研究が発表されました。この研究のポイントは、体に効くのは断熱材そのものではなく、「家の中の温度」だと考えたことです。
たとえば、分厚いコートを持っていても、着ずに外へ出たら寒いですよね。大事なのは、体が実際に感じる温度です。家も同じで、断熱の性能と暖房の使い方によって決まる「室温」が、健康に関わってきます。
さらに、病気の種類によって見るべき温度を分けています。
研究では、断熱のレベルごとに冬(1〜2月)の室温を計算しています。
数字だけ見ると「2〜3℃の違い」ですが、毎日・毎冬のことです。特に、家の中の寒い場所がやわらぐことは、年を重ねるほど大切になってきます。
この研究では、30年間住むとして、次の3つを全部足した合計が一番安くなるのはどこかを計算しました。
すると、今の最低基準より、ずっと上のレベルが一番お得という結果になりました。専門的には「UA値0.4〜0.5くらい」という数字で、岐阜県のこのあたりでは、断熱の目安「HEAT20 G2」(断熱等級6)とほぼ同じ水準です。
これより断熱が弱いと、光熱費や病院代がかさみます。反対に、これより強くしようとすると、今は材料が急に高くなります。ちょうどバランスがいいのが、このあたりだということです。

また、家全体をゆるやかに暖めておく暮らし方が、病院代が一番少なくなることもわかりました。
今の最低基準の家を、この「一番お得なレベル」まで上げた場合の計算です。岐阜県のこのあたりと同じ気候の地域では、次のような結果になりました。
「いる部屋だけ暖める」暮らし方だと、光熱費だけでは86年もかかる計算です。それでも、健康のお得まで含めれば約11年で取り戻せます。
地域や暮らし方によって差はありますが、研究全体としては「病院代まで数えると、だいたい10年前後で元が取れる」という結論でした。
大切な研究なので、正直にお伝えしておきたいこともあります。
あったかい家は、ぜいたく品ではなく、家族の健康と家計を長く守るための「賢い備え」です。

プラスホームでは、新築でもリフォームでも、こうした研究をふまえた住まいづくりをご提案しています。「うちの場合はどうなるの?」と気になった方は、どうぞお気軽にご相談ください。
【参考文献】
伊香賀俊治・江口里佳・村上周三・岩前篤ほか「健康維持がもたらす間接的便益(NEB)を考慮した住宅断熱の投資評価」日本建築学会環境系論文集 第76巻 第666号、2011年
藤田浩司・岩前篤・佐藤寛ほか「住宅内温度に応じた医療費推定法の提案と医療費を考慮した経済的な住宅断熱性能の検討」日本建築学会環境系論文集 第85巻 第768号、2020年
※グラフは上記論文のデータをもとにプラスホームが作成したものです。