家づくりで地震対策を考えるとき、「免震住宅なら安心」というイメージを持つ方も多いと思います。
免震住宅は、大きな地震が起きたときに、地面の激しい揺れを建物へ直接伝えにくくする仕組みです。
家具が倒れにくくなったり、建物への被害を抑えやすくなったりするため、とても優れた地震対策の一つです。
しかし、ここで一つ気になることがあります。
建物の揺れを小さくできたとしても、水道管や排水管、ガス管などは大丈夫なのでしょうか。

実は、免震住宅では建物本体だけでなく、設備配管についても地震の動きを考えた設計が必要です。
対策が不十分な場合、大地震の際に基礎の近くで配管が外れたり、破損したりする可能性があります。
免震住宅について、「地震が起きても建物が動かない仕組み」と思われることがあります。
しかし、正確には少し違います。
免震住宅は、建物と地面の間に、免震装置と呼ばれる特別な仕組みを入れています。
地震が起きると地面は激しく揺れますが、その揺れを免震装置が受け止め、建物へ伝わる力をやわらげます。

その代わり、建物は免震装置の上で、ゆっくりと横方向へ動きます。
たとえば、テーブルの上にお盆を置き、その上に箱を載せた状態を想像してください。
テーブルを急に横へ動かしたとき、お盆が少し滑ることで、上の箱に伝わる衝撃を小さくするようなイメージです。
つまり、免震住宅は建物を完全に固定するのではなく、建物をある程度動かすことで、強い衝撃を逃がしているのです。
住宅には、さまざまな設備配管がつながっています。水道管、給湯管、下水へ流す排水管、ガス管、電気配線、通信線などです。

屋外の地面に埋められた配管は、基本的に地面と一緒に動きます。
一方、建物の中にある配管は、免震装置の上にある建物と一緒に動きます。地震が起きると、地面側の配管と建物側の配管が、それぞれ違う動きをすることになります。
たとえば、地面側は右へ動いているのに、建物側は少し遅れて動くことがあります。
この二つを、曲がらない硬い配管でまっすぐにつないでいたら、どうなるでしょうか。
配管が強く引っ張られたり、折り曲げられたりして、継ぎ目が外れる可能性があります。
細い棒の両端を持って、別々の方向へ動かすと、真ん中に力が集まるのと同じです。そのため、免震住宅では、地面側と建物側の境目に特別な工夫が必要になります。
適切に設計された免震住宅では、普通の硬い配管を、そのまま地面側から建物側へつなぐわけではありません。
地震で建物が動いても配管がついていけるように、曲がりやすい部材や、動きを吸収できる継ぎ手を使います。
たとえば、やわらかく曲がるフレキシブル管を使ったり、配管を少し長めにして、ゆるやかなカーブをつくったりします。
電気や通信のケーブルにも、建物が動いたときに引っ張られないよう、あらかじめ余裕を持たせます。
掃除機のコードをいっぱいまで伸ばしてしまうと、少し動いただけでもコンセントが抜けてしまいます。
反対に、コードに余裕があれば、多少動いても抜けにくくなります。
免震住宅の配管も、それと似た考え方です。
ただし、どのくらい曲がればよいかは、感覚だけで決めてはいけません。
地震の際に建物が最大で何センチ動くのかを計算し、その動きに配管が耐えられるように設計する必要があります。
水道管やガス管は、比較的細く、曲がりやすい材料を使える場合があります。
一方で、トイレやお風呂、キッチンの水を流す排水管は、対策が簡単ではありません。
排水管は水道管よりも太く、汚水や生活排水を自然に流すために、少し傾けて設置されています。
この傾きを「排水勾配」と呼びます。
排水管を自由に曲げすぎると、水が流れにくくなったり、汚れがたまって詰まりやすくなったりします。
また、地震で管の途中に段差ができると、トイレットペーパーなどが引っかかる可能性もあります。

そのため、排水管は単にやわらかい管を付ければよいわけではありません。
建物が大きく動いた場合にも排水の傾きを保てるか、管が周囲の基礎にぶつからないか、点検や交換ができるかまで考える必要があります。
大地震のあと、建物の柱や壁に大きな被害がなかったとしても、水道やトイレが使えないことがあります。
建物につながる敷地内の配管が壊れていなくても、道路の下にある水道管や下水管が損傷すれば、設備は使えません。
また、地盤の液状化や沈下によって、地面の中の配管がずれたり、壊れたりすることもあります。

免震住宅だからといって、すべての設備が必ず守られるわけではないのです。
免震構造の目的は、まず建物への揺れを小さくして、人の命や建物を守ることです。
しかし、大地震のあともその家で生活を続けるためには、水道、排水、電気、ガスなどの設備が使えることも大切です。
家は倒れなかったけれど、トイレも水道も使えない状態では、長く住み続けることが難しくなります。
免震住宅を検討するときは、「免震装置が付いているから安心です」という説明だけで判断しないことが大切です。
設計者や住宅会社には、設備配管についても確認してみましょう。
まず、地震の際に建物が最大でどのくらい横へ動く設計なのかを確認します。
次に、その動きに水道管、排水管、ガス管、電気配線が追従できるのかを聞きます。
特に排水管については、建物が動いたときにも正常に水が流れるのか、点検や交換ができる場所に設置されているのかが重要です。

大きな地震のあとに、どこを点検し、どの部品を交換する可能性があるのかも聞いておくと安心です。
図面を見る機会があれば、建物と地面の境目にある配管の納まりを確認してもらいましょう。
難しい図面を自分で理解する必要はありません。「この配管は、建物が動いたときに大丈夫ですか」と質問するだけでも、住宅会社の考え方が分かります。
免震住宅では、地面と建物が別々に動くため、設備配管に特別な注意が必要です。対策をしないまま硬い配管でつなげば、大地震のときに破損する可能性があります。
しかし、建物の移動量をきちんと計算し、それに合った配管や継ぎ手を使えば、破損の危険を大きく減らすことができます。
大切なのは、免震構造そのものを怖がることではありません。
建物の構造だけでなく、給排水やガス、電気まで含めて、住宅全体として地震対策が考えられているかを見ることです。
本当に安心できる家とは、大地震で倒れないだけの家ではありません。地震のあとも水を使え、トイレを使え、家族が生活を続けられる家です。
免震住宅を選ぶときには、目に見える免震装置だけでなく、普段は見えない設備配管の安全性にも目を向けることが大切です。