住まいづくりを考え始めると、多くの方が最初に新築住宅を思い浮かべます。
新しくてきれいなキッチン、使いやすい間取り、まだ誰も使っていないお風呂。新築住宅に魅力を感じるのは、とても自然なことです。

最近では、建売・分譲住宅でも断熱等級5が一般的になり、以前の住宅と比べれば断熱性能は確実に高くなっています。
そのため、「新築で断熱等級5なら、十分に暖かく快適なのでは」と考える方も多いでしょう。
もちろん、断熱等級5の分譲住宅が悪いわけではありません。立地や間取り、価格、入居までの早さなど、ご家族の希望に合っていれば、有力な選択肢です。
ただ、ここで一度考えていただきたいことがあります。
新築の断熱等級6の住宅は予算的に難しい。だからといって、断熱性能や住み心地をあきらめ、断熱等級5の分譲住宅だけに選択肢を絞る必要はありません。
中古住宅を購入し、建物の状態を確認したうえで、断熱・気密・換気をきちんと計画してリフォームする方法があります。
建物の新しさではなく、これから家族が長く過ごす「室内環境」に予算をかける。そんな家づくりも、もっと知られてよいのではないでしょうか。
冬のリビングで、エアコンを20℃に設定したとします。
断熱等級5の家でも、断熱等級6の家でも、室温計には同じ20℃と表示されるかもしれません。しかし、人が感じる暖かさは、室温の数字だけでは決まりません。
窓や壁、床の表面が冷たいと、体の熱が冷たい面へ奪われます。
室温は20℃あるのに、窓際に座ると冷気を感じる。ソファに座っていると足元だけが寒い。暖房の温度を上げても、なぜか落ち着かない。
こうした不快感は、室温計の数字には表れにくいものです。
断熱等級6まで性能を高めた住まいでは、窓や壁、床の室内側の温度が下がりにくくなります。そのため、エアコンの風を強く当てなくても、家全体から包まれるような暖かさを感じやすくなります。
暖房の設定温度を高くすることより、冷たい場所を減らすことの方が、心地よい室内環境につながるのです。
家族の中で最初に起きて、朝食やお弁当の準備をする。
冬の朝、暖かい布団から出て、冷えた廊下を通り、寒いキッチンで暖房をつける。この毎日の小さな我慢は、意外に大きな負担になります。
断熱等級5の家でも、暖房をつけたリビングは比較的早く暖まります。ただし、暖房していない寝室、廊下、トイレ、洗面所などは、外気の影響を受けて冷えやすくなります。
断熱等級6まで高めた家では、暖房していない場所の温度も下がりにくくなります。
家のどこにいても同じ温度になるわけではありません。それでも、寝室から廊下へ出た瞬間に肩をすくめたり、洗面所で震えながら顔を洗ったりするような、極端な温度差を減らせます。
朝から寒さに追い立てられるように動くのではなく、少し落ち着いて一日を始められる。
これも、住まいの性能がつくる暮らしの質です。
冬の朝、子どもがなかなか布団から出てこない。
「早く起きなさい」
「着替えなさい」
「学校に遅れるよ」
毎朝、同じ言葉を繰り返しているご家庭も少なくないでしょう。
もちろん、子どもが起きない理由は寒さだけではありません。しかし、寝室が冷え、着替える場所も寒ければ、暖かい布団から出たくないのは自然なことです。

寝室や廊下の冷え込みが穏やかな家では、朝起きたときの体への負担が少なくなります。
兄弟で暖房の前を取り合ったり、パジャマのままリビングへ駆け込んだりすることも減るかもしれません。
家づくりでは、子ども部屋の広さや収納の数に目が向きがちです。しかし、子どもが毎朝気持ちよく起きられることも、間取りと同じくらい大切ではないでしょうか。
小学生の間は、リビングで宿題をする子どもが多いと思います。
しかし、中学生、高校生になると、自分の部屋で勉強したり、読書をしたり、一人で過ごしたりする時間が増えてきます。
そのとき、子ども部屋が冬は寒く、夏は暑いと、せっかくつくった部屋が十分に使われません。
「自分の部屋は寒いから、リビングで勉強する」
「2階は暑いから、下で寝たい」
こうしたことが起こると、家族の生活がリビングだけに集中してしまいます。
断熱等級6まで高め、家の中の温度差を小さくできれば、子ども部屋も使いやすくなります。
足元の寒さに気を取られずに机に向かえる。夜に暖房を止めても室温が急激に下がりにくい。夏も日射遮蔽や空調計画をきちんと行えば、2階に熱がこもりにくくなります。
子どもに集中を求める前に、集中しやすい環境を整える。
住まいの性能には、そんな役割もあります。
冬のお風呂でつらいのは、浴室よりも脱衣所かもしれません。
服を脱ぐと寒く、子どもは急いで浴室へ入る。お風呂から出たあとは、体が冷えないように慌ててタオルで拭き、パジャマを着せる。
断熱性能が高く、脱衣所まで冷えにくい家では、この慌ただしさを減らせます。
お風呂上がりに、子どもの髪を落ち着いて乾かせる。保湿剤を塗ったり、着替えを手伝ったりする時間にも余裕が生まれます。
そして、家を建てたときには若かったご夫婦も、その家で年齢を重ねていきます。
将来、暖かいリビングから冷え切った脱衣所へ移動する際の温度差を小さくすることは、体への負担を抑えるうえでも大切です。
今の快適さだけでなく、20年後、30年後の安心まで考えることが、長く住む家には必要です。
冬の朝、カーテンを開けると窓がびっしょり濡れている。
窓枠にたまった水を雑巾で拭き、カーテンや窓周辺にカビが生えていないか確認する。忙しい朝にこの作業が加わると、大きな家事負担になります。

断熱リフォームでは、窓の交換だけでなく、壁、天井、床の断熱を連続させ、冷えやすい部分を減らしていきます。
さらに、計画換気と適切な湿度管理を組み合わせることで、表面結露やカビの発生を抑えやすくなります。
もちろん、室内干しの量や加湿器の使い方によっては、断熱性能の高い家でも結露することがあります。しかし、窓や壁の表面温度が高く保たれれば、結露が起こりにくい環境をつくれます。
便利な家電を増やすことだけが、家事を楽にする方法ではありません。
窓を拭く。カビを掃除する。寒い場所を急いで移動する。
こうした日々の小さな手間を減らすことも、住宅性能がもたらす省エネで快適な暮らしです。
省エネというと、暖房の設定温度を下げたり、使っていない部屋のエアコンを消したりすることだと思われがちです。
しかし、本来の省エネは、寒さや暑さを我慢することではありません。
少ない冷暖房で、家の中を快適な状態に保てることです。
断熱性能が低ければ、暖房をつけても窓や壁から熱が逃げ続けます。暖房を止めれば、室温は早く下がります。
断熱性能を高めた住まいでは、一度暖めた熱が逃げにくくなります。そのため、必要以上に設定温度を上げたり、強い風を長時間当てたりしなくても、快適さを保ちやすくなります。
光熱費を抑えるために寒い部屋で過ごすのではなく、暖かく暮らしながらエネルギーの無駄を減らす。
これが、断熱性能を高める本当の意味です。
中古住宅の断熱リフォームと聞くと、
「本当に新築のように暖かくなるの?」
「古い家にお金をかけても大丈夫なの?」
と不安になる方もいるでしょう。
その不安はもっともです。

中古住宅であれば、どの建物でも断熱等級6に改修できるわけではありません。雨漏り、構造、基礎、シロアリ、屋根や外壁の状態などを事前に確認する必要があります。
そのうえで、窓だけでなく、屋根や天井、壁、床まで断熱する。
断熱材を隙間なく連続させる。
換気や防湿、結露対策を一緒に考える。
そして完成後には、気密測定を行い、計画した性能が実際に確保できているかを確認する。
ここまで行って初めて、計算上の断熱等級6が、実際の暮らしの快適さにつながります。
新築であることそのものが、暖かさを保証するわけではありません。
大切なのは、新しいか古いかではなく、完成した住まいの中に、どのような温度、湿度、空気環境をつくれるかです。
新築の高性能住宅を希望していても、土地代や建築費の上昇によって、予算が合わないことがあります。
そのとき、無理な住宅ローンを組むか、希望していた住宅性能を下げるか、家づくりそのものをあきらめるか。
その三つだけで悩む必要はありません。
立地や大きさが希望に合う中古住宅を探し、内装や設備だけでなく、断熱・気密・耐震といった家の基本性能に予算を配分する方法があります。
①新築のような真新しさより、朝起きたときに寒くないことを選ぶ。
②豪華な設備より、脱衣所やトイレまで冷えにくいことを選ぶ。
③広い床面積より、家族が家全体を気持ちよく使えることを選ぶ。
これは、新築をあきらめた家づくりではありません。
限られた予算の中で、家族にとって本当に大切なものを選ぶ、前向きな家づくりです。

断熱等級5の分譲住宅を購入することも、一つの選択です。
けれども、同じ予算の中で、より快適で、省エネで、健康に配慮した暮らしを目指したいと考えるなら、中古住宅を購入して断熱等級6までリフォームする方法も、ぜひ選択肢に加えてみてください。
住まいの価値は、新築か中古かだけでは決まりません。
家族が毎朝どのように目を覚まし、家の中をどのように移動し、どこでくつろぎ、どのように眠るのか。
その何気ない毎日の積み重ねが、本当の住み心地をつくります。
家づくりで大切なのは、新しい家を手に入れることではなく、家族が長く、穏やかに、安心して暮らせる環境を手に入れることなのです。