今回は、寒さが本格化する前にぜひ知っておいてほしい大切な話をまとめました。
テーマはずばり、「暖かい室内で高血圧を予防する」 ということです。

あくまで、家づくりの視点から見た健康の話として読んでいただければと思います。
近年、「スマートウェルネス住宅調査」という、高性能な家と人の健康状態の関係を調べる大規模な調査が行われています。
その中で、僕らが現場でなんとなく感じていたことが、エビデンス(データ)として数値で示されるようになってきました。
辻充孝先生は、こうおっしゃっています。
「寒くなってきたら、家は足元から暖めることがすごく大切です」

ここで比較されているのは、次の3つの住環境です。
断熱性能が高く、暖房もしっかり効いている暖かい家(基準)
室温はそこそこ暖かいけれど、足元が冷たく、家に隙間が多い家
隙間風が多く、暖房も我慢してしまうような全体的に寒い家
この3つの環境で、さまざまな病気のなりやすさを比較すると、はっきりとした差が出てきます。
成人病と呼ばれる病気として、
高血圧症
脂質異常症
糖尿病
聴こえにくさ(難聴)
骨折・ねんざ
などがあります。

調査結果では、暖かい家を基準1とした場合に、
室温はそこそこだが足元が寒い家
全体的に寒い家
どちらも、病気のリスクが1.3〜1.6倍程度に増えるという結果が出ています。
たとえば:
高血圧症:足元が冷たい家で 約1.5倍
糖尿病:1.64倍
耳が聴こえにくくなるリスク:1.3倍
骨折・ねんざ:1.65倍
おじいちゃん・おばあちゃんが住んでいた山間部の、ものすごく寒い家を思い出す方も多いのではないでしょうか。

「年を取ったら耳が遠くなるもんだ」とよく言われますが、寒さがその一因になっていた可能性もあるわけです。
日本には約5,000万戸以上の住宅がありますが、その約87%が現行の断熱基準を満たしていないと言われています。
特に、昭和55年より前の家は、ほぼ「無断熱」と言って良いレベルです。
そういったとても寒い家では、
高血圧症:1.53倍
脂質異常症:1.39倍
聴こえにくさ:1.39倍
骨折・ねんざ:1.65倍
といった具合に、健康リスクが大きく跳ね上がります。
寒いと体がこわばり、転倒しやすくなります。

特に高齢者にとって、「家の中での骨折」は生活を一変させてしまう大きな事故です。
スマートウェルネス住宅調査では、血液検査の数値にも違いが出ることが分かっています。
室温18℃以上の家(比較的暖かい家)
室温12〜18℃くらいの「中途半端に寒い家」
室温12℃未満の「かなり寒い家」
これらを比べると、
中途半端に寒い家:1.83倍
12℃未満の寒い家:1.87倍
と、γ-GTPや悪玉コレステロールなどの数値が悪化しやすいというデータがあります。
総コレステロール値も 1.64倍 ほど溜まりやすくなり、脂質異常症の5年間の発症リスクは 3.57倍 にもなるそうです。
人間の体は「寒さから身を守ろう」として脂肪を蓄えようとする、防衛反応をしているのかもしれません。
2018年、WHO(世界保健機構)は、
「人が住む室内は18℃以上が望ましい」
と勧告しています。
さらに、高齢者や子どもには21℃以上を推奨しています。
いまだに真冬に室温が10℃以下になっている家も珍しくありません。
お年寄りが一人で住んでいる家ではなおさらです。

「ここまで我慢してきたから大丈夫」
「もう長くないから暖房はいらん」
そう言う方も多いですが、それでは命を縮めてしまう可能性があります。
ご家族・お子さん・お孫さんは、ぜひ気にかけてあげてください。
私自身も今、高血圧症の治療薬を毎日飲んでいます。
普段は正常値に近いのですが、寒い朝や疲れ・心配事が重なったときには数値が上がりやすいです。
若い頃は血圧の数字なんて気にしていませんでしたし、「健康そのものだ」と過信していました。
でも、年齢とともに確実に変わります。
統計では、10年ごとに血圧は約7mmHg上がるとも言われています。
「ある日、突然来るぞ」
先輩から言われたこの言葉の意味を、今になって実感しています。
あるグラフでは、縦軸に血圧、横軸に室温をとっています。
これを見ると、
20℃の部屋 → 10℃の部屋へ移動
→ 血圧が10.2mmHgも上昇
していることがわかります。
5℃前後の部屋では、若い人も高齢者も血圧が高めになります。
なぜかというと、寒さから体を守ろうとして、心臓が強く・速く血液を送り出すからです。
その結果、血圧が上がるわけですね。
さらに統計では、
室温が暖かい人でも、冬の死亡者数は12月から25%増える
というデータもあります。
過酷な寒さの日には、血圧の急上昇やヒートショックが引き金となり、命に関わるケースが増えるのです。
では、どうやって家を暖かくすればいいのか。
ここからは、私が現場でおすすめしている具体的な対策をご紹介します。
一番コスパが良いのが窓の断熱強化です。

プラダン(プラスチック段ボール)を使った簡易二重窓
DIY感覚でできる断熱改修
費用を抑えながらも、体感温度がぐっと変わります。
興味のある方は、ぜひ「プラダン窓」で動画検索してみてください。
床下に潜れる家なら、
床の裏側から発泡ウレタンを吹き付ける
外周部や間仕切り下を気流止めする
こうすることで、足元から入ってくる冷たい隙間風を防げます。
「断熱材が入っているのに足元が寒い」という家の多くは、
断熱材そのものよりも、隙間からの気流が原因のことがほとんどです。
天井裏の断熱がスカスカな家も多いです。
小屋裏から吹き込み系の断熱材や発泡ウレタンを追加してあげると、
放射冷却による冷え込みを防ぐ
冬も夏もエネルギーロスを減らす
ことができます。
「暖めた空気を逃がさない」ことは、暖房費の節約にもつながります。
古いタイル張りのお風呂は、とにかく寒いです。
ヒートショックの危険度も高くなります。

ユニットバスへリフォーム
脱衣所の断熱・暖房設備の追加
これだけでも、命を守るリフォームになると僕は思っています。
最近は、ダイキンさんなどから床置き型エアコンも出ています。
壁掛けではなく床付近から温風を吹き出す
床スレスレに暖気を送り、足元の冷えを解消
エアコン暖房で「足元だけがいつも冷たい」と感じている方には、とても良い選択肢です。
買い替えのタイミングでぜひ検討してみてください。
最後に、大事な提案をひとつ。
「50歳になったら、断熱リフォーム・断熱リノベを真剣に検討してほしい」
ということです。
50代は、まだ気力も体力もあります。
判断力もあり、「よし、やろう」と決めて動ける年代です。
60代になると、どうしてもパワーが落ちてきます。
「まあ、もういいか」「そのうちね」と先送りしやすくなります。
「もしかしたら遅いかも」と思う家こそ、今が最後のチャンスかもしれません。
寒さは、根性や我慢の問題ではありません。
データが示す、れっきとした健康リスク要因です。
高血圧
脂質異常症
糖尿病
転倒・骨折
ヒートショック
こうしたリスクを減らすために、
「暖かい家づくり」は、転ばぬ先の杖として非常に有効な対策です。

これから本格的に冬がやってきます。
家族や自分へのプレゼントとして
大切なおじいちゃん・おばあちゃんへのプレゼントとして
「暖かい家」という選択を、ぜひ本気で考えてみてください。
人生には、まだまだ楽しいことがたくさん待っています。
その時間を少しでも長く、元気に過ごせるように──住まいから整えていきましょう。