「すべての窓をトリプルガラスにすると良いと聞いた」
——あるお客様からの言葉に対しての
私の答えがこのブログを書くきっかけです。

ここでは、窓の基礎から選び方、
コスト最適化のコツまで、
実務の視点で整理します。
シングルガラス:断熱が弱く結露しやすい
ペアガラス(複層):ガラス2枚+中間層(乾燥空気/ガス)で断熱性が向上
トリプルガラス:ガラス3枚+中間層×2でさらに断熱・遮音・防犯性が向上
トリプルの主なメリット
断熱性能が高くガラス面の結露が激減
遮音性アップ
防犯性も向上(破壊に時間がかかる)

主なデメリット
コスト増(仕様次第で+40〜100万円のレンジ)
重量増(大開口は操作が重くなることも)

設計者の答えはいつも「地域区分と敷地条件次第」。
同じ地域でも日射条件(周囲建物・地形・植栽)で
最適解は変わります。

1・2地域(寒冷地):原則トリプル推奨
例)外気−10℃/室内20℃=ΔT 30℃ → 窓の断熱強化メリット大
5・6地域(温暖地):
冬季に南面日射がしっかり得られる敷地 → 南はペアでも合理的
冬季に日射が期待できない(隣棟影・地形等)→ トリプル有利
南の大開口はペア(日射取得型)で暖房費を削減
東・西・北の小窓はトリプルで熱損失を抑制
→ コストの山(大開口)を抑え、小窓トリプルで性能底上げ。総額アップは+10万円程度に収まることも。
日没後は窓から熱が逃げます。
雨戸・シャッター・厚手カーテン・
ハニカムスクリーンの併用で体感と熱損失を補正。

特にハニカムは独立気泡層を作り、
ガラス1枚分相当の効果が期待できます。
日射取得型:冬に太陽熱を取り込み、室内側の放熱を抑える(南面向き)
日射遮蔽型:夏季の日射侵入をカット(西・東・眺望優先の北面など)
トリプルはメーカーにより膜の配置や
色味(クリア/グリーン/ブラウン等)があり、
目的(取得/遮蔽)に合わせて選定します。
この説は前提条件の取り違えが多いです。
壁に断熱がまったくない古家で、窓だけを高性能化すると温度分布が変わり、理屈の上では別部位で結露が起きうる…という話が独り歩き。
ただしそのような家は気流止めが無いなど他要因も大きく、壁内の温湿度条件が安定しない一方、外気に近い温度場で乾きやすいという側面も。
現代の新築・改修で適切な断熱・通気・気密・透湿設計を行えば、“トリプル=壁内結露”には直結しません。

壁は 外壁 → 通気層 → 面材(透湿) → 断熱材 → 室内側気密層 → 石膏ボード が基本。
気密で侵入を抑え、透湿で抜け道を確保する
「入れず・溜めず・乾かす」設計が肝です。
U値(W/㎡K)は小さいほど断熱性↑
R値=1/U(熱抵抗)。大きいほど断熱性↑
代表例(概算イメージ)
樹脂枠トリプル:U≈1.0 → R=1.0
樹脂枠ペア:U≈1.7 → R≈0.59
アルミ樹脂複合ペア:U≈2.4 → R≈0.42
アルミ枠ペア:U≈4.6 → R≈0.22
グラスウール16K・t=100mmのRは約2.6。
これで換算すると——
樹脂トリプルは約38.4mm分
樹脂ペアは約22.6mm分
アルミペアは約8.4mm分
「窓はどれだけ頑張っても壁断熱の一部ほどの厚み相当」という直観が掴めるはず。だからこそ窓“だけ”で語らず“外皮全体”で最適化するのが正解です。
地域区分 × 敷地の日射条件で、南面は取得優先か遮蔽優先かを決める
南の大開口はペア(取得型)+夜間対策、小窓はトリプルで費用対効果を稼ぐ
Low-Eの配置を目的に合わせて選ぶ(取得型/遮蔽型)
**壁は「気密+透湿+通気」で“乾く設計”**にする(面材の透湿も重要)
窓単体でなく外皮全体(壁・屋根・基礎・換気)でバランス設計
| 条件 | 南面の推奨 | 東西北の推奨 | 夜間対策 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 南面に十分な冬季日射 | ペア(取得型Low-E) | トリプル(遮蔽/標準) | ハニカム/雨戸 | コスト最小で暖房費を抑える |
| 南面が隣棟影で日射乏しい | トリプル(取得型) | トリプル | カーテン等 | 逃げ熱を極小化 |
| 西日が強い | 南:ペア(取得型) | 西は遮蔽型を強める | 外付け遮蔽+夜間対策 | 夏季のピーク抑制 |
| 予算を抑えつつ性能確保 | 南大開口はペア | 小窓をトリプル | ハニカム | トータル+10万円程度UPに留めやすい |
「トリプル=壁内結露」は、
設計の前提を外した一般論が独り歩きしたもの。

実際は、外皮全体の設計
(気密・透湿・通気・日射計画)と窓の使い分けで、
快適・省エネ・結露抑制・コストのバランスは
十分に取れます。